ウェブ観戦記を読む

 棋聖戦第一局、羽生名人の勝利で幕を開けた。
 産経の棋聖中継plusや梅田望夫氏さんのウェブ観戦記を読んで、昨日のエントリーはかなり的外れだったことに気がついた。産経新聞棋譜中継サイトは大変充実していて、棋譜中継では一手一手の指し手にコメントが入り、盤面が動かせる。指し手解説は、時間がたつと詳しくなったりしている。また、棋譜plusでは、写真もふんだんに入り(昼ご飯もおやつの写真も(笑))、対局場の様子がなかなかよくわかる。ひょっとしたら産経のサイトは他棋戦の中継サイトより充実しているのかもしれないが、昨日のエントリーで注文したことは、棋譜中継と棋譜plus(こちらでも、梅田さんのウェブ観戦記が読める。)で実現しているではないか。
しかし、梅田観戦記は私の注文の遙か上をいっている。第1回は、遠足前夜の小学生のように寝られない梅田さん棋聖戦第一局の観戦記を書きに行ってきます。 - My Life Between Silicon Valley and Japan
が午前3時45分に書き始めた(書き終わったのはいつだ?)『将棋界は「これからの10年」抜群に面白くなる』。
http://sankei.jp.msn.com/culture/shogi/090609/shg0906090829000-n1.htm
 この剛速球のタイトルはどうだ。観戦記の一節を超えて、新たな将棋本を書きおろしているかのようだ。最初のエントリーは、観戦記を書くずいぶん前から用意していた素材だとは思うが、現代将棋を真っ向からとらえて、将棋ファンや潜在的将棋ファンを引きつける。
 羽生名人は、後手で急戦矢倉の作戦をとった。羽生名人は立会人によって作戦を選ぶという伝説(ある種のファンサービスとして本当にそうなのかもしれない)があるが、この急戦矢倉は、「変わりゆく現代将棋」に最も興奮した人=梅田望夫を意識したとしか思えない。「急戦矢倉の歴史観」という用語まで持ち出して深浦王位とやりとりする内容はアマ高段者にも読ませる深いモノになっている。
 木村九段に迫るという私の要望も、綿密な事前取材を駆使して、かなえてくれていた。野月七段への事前インタビュー、さりげなく挿入された3年以上前の将棋世界での先崎八段のコメント。こうした素材は、観戦記を書き始めるかなり前からウェブの向こう側に準備していたのだろう。
 「ねじり合い」は「シリコンバレーから将棋を観る」の時も気になっていた言葉なので、どういう解説を引き出せるのかとても関心があった。将棋を指していると、ねじり合いという感覚は良く理解できるが、これを別の言葉で人に説明するのはとても難しい。英訳プロジェクトではtwistという直訳になっているが、今ひとつしっくりこない。今回の観戦記では「ねじり合い」が上手く説明されたとは言えないと思う。多分肝心の対局が十分なねじり合いの将棋にまで至らなかったためではなかろうか。
 ウェブ観戦記は、梅田さん以外でもできる、なぜもっと参入しないかと私は書いたが、こんなレベルのウェブ観戦記は誰にでも書けるものではない。対局者と同じくらい十分な準備をして、気合いを入れた作品だ。でも、同じスタイルでは勝てないかもしれないが、別のスタイルで面白いウェブ観戦記がもっと出てきても良いと思う。
 それから、木村八段、次は和服を脱ぎ捨てて、人に嫌われてもいいような気持ちで対局して欲しい。第1局のような将棋でずるずるといってしまうのでは面白くない。今回の棋聖戦は木村八段を応援します