なでしこジャパン戴冠! その3:クリシェ(決まり文句)ではない、なでしこの成長

 サッカーの華はやはりゴールなので、どうしてもゴールを決めた選手に注目が集まってしまいますが、今回のワールドカップでは自分たちよりずっと大きな敵選手の波状攻撃を粘り強く跳ね返した守備陣の頑張りが光ったと思います。なでしこジャパンは、1試合ごとに成長した、と評されていますが、ワールドカップの間、特に守備面で大きな進歩を見せました。予選リーグ、特にニュージーランド戦、イングランド戦では、DFラインとGKの連携に問題があり、ボール奪取も今ひとつでしたが、決勝トーナメントでは押し込まれていたドイツ戦、アメリカ戦でも、連携は改善されていました。体を張って守る両CBと両ボランチの奮闘には男子代表も見習って欲しいくらいです。岩清水のレッドカードを貰ったプレーも、価値あるタックルでした。
 澤は、得点王になったので、ゴールが注目を集めていますが、今回特に賞賛されるべきは、守備面での役割でした。澤自身も、状況によって限定的に攻め上がっていったようで、守備の意識がむしろ高かったように見えました。最年長なのに誰よりもボールを追い、優れたポジショニングで危機を未然に防ぐところが本当に素晴らしい。言い尽くされたことですが、強い精神力、見事なキャプテンシーといい、本当に頼りになるスーパーな選手でした。まだまだ澤はやれると思いますが、ポスト澤を見つけ、育てていかなければなりません。スーパーな選手であると言っても、いつまでも今のプレーができるわけではないのですから。

なでしこジャパンの「諦めない気持ち、心」、と何度も報じられていますが、前にも書いたように大舞台で最後まで諦めないのは当たり前です。真に賞賛すべきは、延長に入っても走り負けなかった体力と精神力(アメリカ戦でも、延長後半サイドバックの近賀がゴールエリアまで侵入していくような走りを見せたことが、その後のCKにつながりました)、劣勢でも自分たちのスタイルを貫いた攻撃の組立を維持できたこと、そして無論、結果を出したことです。単なる精神論ではなく、結果につながる、自分の力に支えられた、「諦めない気持ち」だったということでしょう。

なでしこジャパンは帰路大半の選手がエコノミークラスで帰ってきたそうです。ビジネスにランクアップしてくれるスポンサーはいなかったのでしょうかね。なでしこジャパンの選手たちは、帰国後たくさんのテレビ番組に出ましたが、サッカーの話よりワイドショー的ネタでいじられるようなシーンが多かったようです。もっとサッカーの話を聞いてやれよという思いがあり、こうしてワールドカップ優勝というストーリーは消費されていくのだな、とも感じました。幸いなことに選手たちは浮かれているような感じはなく(浮かれてもいいと思うけど)、出演を楽しみつつも、女子サッカーへの関心を高め、裾野を広げるために役割を果たしていました。

世界一になったことで、途端にマスコミは日本女子代表が世界最強チームになったように持ち上げますが、試合内容から見て、アメリカ、ドイツにはまだまだ及ばないという感じがします。アメリカにはまだ一度も「勝っていない」のは、先のエントリーに書いたとおり。日本は、今後敵に目標にされ、研究されていくわけですから、さらにレベルアップしなければ五輪予選だって安泰とは言えません。今回はバーやポストに助けられたシュートが多かったことなど、日本チームにかなりツイていたと思いますが、いつもこのような幸運がめぐってくるわけでもないでしょう。ただ、マスコミは分かっていなくても、選手や監督は十分わかっているし、舞い上がっているところなど少しもない様子なので、心配はないと思います。これからなでしこリーグが盛り上がり、次へと進む実力アップを成し遂げてくれるでしょう。